シンデレラ奇譚
[ 第5話:魔女の契約(2) ]
着替えるところを見られるのは女友達とは言え恥ずかしい。ジュリアにはちょっと部屋の外へ出てもらって、ドレスをベッドの上に寝かせ、改めて“せくしぃドレス”と対峙した。
もし、もしも。だ。
着てみて入らない事に気付いたら、あまりに、切ない。
「……やめよっかな」
サイズの問題抜きでも、この服を着ない理由なら、てきとーにあげられる。
「こんな胸の開いた服、ふしだらよね。ね!」
自分に言い聞かせるように言うものの、やっぱり、ちょっぴり、興味がそそられる。
ちょっと、だけ。着てみようか。
無理そうなら、さっきの理由をつけて最初から着なかったことにすれば良いし。
覚悟を決めて、私は今着ている服を脱ぐと、ドレスを頭から被る。形が崩れないようにもぞもぞとドレスのすそを掴んでを下に送る。あ、やっぱり腰苦しいかも、しれない。
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶ」
おなかに若干力をこめて、なんとか最後まで着ることができた。
「うわー、なにこれ」
思った以上に、きわどい。
がばりと開いた胸のところを、クロスさせた紐で留めているところが余計に扇情的だ。鏡の前でくるくると回って、背中や全体をちゃんと確認してみる。
「まぁ町娘にしては、ましなほうじゃない?」
突然の、声。
「は?」
ジュリアはまだ外に居る。もちろん、独り言じゃない。
正面の全身鏡をのぞくとそこには、自分と、その背後に一人の、女。
「だ、だれっ?」
私は後ろを振り返って、一歩あとずさった。女は私を下から上までじろじろと見回し、値踏みするように「ふぅん」と小さく首を縦に動かした。
その出で立ちは怪しさ満点で、とても侍女や城付きの者とは思えない。真っ黒の長いローブをひきずり、髪は赤毛で長さは腰までもありそうだ。そして極めつけは、これまた真っ黒の……とんがり帽と、肩の、黒猫。
これって、もしかして、ええと……。
「あんた、ちっちゃいときに童話を読んだことも無いの?」
女は目を丸くして、私に言った。そんな質問は心外だとでも言わんばかりに。
いいえ、絵本なら読んだことはありますよ。ありますとも。貴女のようなかっこうで……でも貴女とは違って、もっとよぼよぼのおばあちゃんが出てくるお話を。
「じゃあ、やっぱり……」
胃の奥からねじられるような痛みが込み上げてくる。緊張なのか恐怖なのかわからないけれど、握った手のひらは冷たい汗で湿っている。
あぁ、こんなのって、うそだ。冗談じゃない。
背後は鏡で、逃げ場はどこにも無い。
「あたしは魔女様だよ、おじょうちゃん」
にんまりとわらう女。
そして、わたしの方へ歩を進め――
「……ぁっ」
わたしの胸紐を、締め上げる
ううん、締め上げる、なんて、もんじゃ……ないっ
息が、できな――
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