シンデレラ奇譚

[ 第4話:胎動する世界(3) ]

 立ち上がってセティの背を見送った王子は、彼女が見えなくなると、やがて腰を折ってクツクツと笑い始めた。堪えるどころのレベルは、もうとっくに超えている。今なら、プライドも何をも捨てて、馬鹿みたいな大声で笑えるかもしれない。
「まいった」
 笑い声の中に、思わず漏れた。こんな感情や言葉を、自分は知らない。
 最初は、退屈しのぎのおもちゃだったのに。その娘が、この自分に、友達になってあげるだなんて。しかも、彼女自身は気付いていなかったが、
 
 はじめて、なんの屈託もなく、笑いかけてくれた。

「傑作だ」

 思えば、自分は寂しさを感じるはずなんて無い。じぶんの感情は、あの日から、ずっとずっと止まったまま。いや、そもそも動いたことなど一度も無い。それなのに「さびしそう」だなんて、それは、つまり。

「知らないうちに、世界は動き出していたんだな」
 そして、その世界を動かしたのは、彼女に他ならない。何も、知らないくせに。いや、何も知らないからこそ。

「しんじられないっ」

 笑顔一つに、こんなにも簡単に。

 もう、この先自分にもどうなるかなんてわからない。こんな色鮮やかな視界は、初めてだ。

「……欲しく、なってしまった」

 ひとつの世界が、生まれようとしていた。

第四話 了
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