シンデレラ奇譚
[ 第4話:胎動する世界(2) ]
多くの人に囲まれて。多くの物に囲まれて。何故、そんな彼を見てこんな考えが浮かぶのかは、セティにもわからない。だけれど、そう感じてしまう。
王子はセティの問いかけに、驚いた顔をした。まるで、今まで気付かなかったものに気付いたかのような。
「さぁ、どうなんだろう。……そんなこと、思いつきもしなかった」
そして、両の手に視線を落とし、呟く。
「そうなのかもしれない」
なぜ。
どうして、彼はそんなことに気付かなかったのだろう。
何故。
「……いままで、何とも無かったの?」
王子は深く頷き、セティは言葉を失う。嘘だ。そんなこと、あるはずが無い。
だって、あの頃の、あの頃の自分なら。
「寂しさってね、自分が思っている以上に、心を窒息させて、萎縮させて、蝕んでいくの。何とかしなきゃって思う頃には、もう、ひとりでは立ち上がれない」
もう、遠い昔のこと。すっかり癒えた様に見えて、でも、その心の奥底のくぼみは、消えることは無い。どんなに時が経とうとも、わずかばかりの影が脳裏をよぎる。寂しさの傷を、自分はまだ、こんなにも覚えている。
だから
「私、あなたの妻になんてなる気は毛頭にも無いけど、友達にはなってあげる。話をするくらいのことなら、私にもできるもの。人間と喋ってる実感なら、いくらでも」
セティはそう言って、笑った。
「じゃ、そろそろおいとまするわ。ベル達が帰ってくる頃だから」
「セティ」
セティは、いつもの調子でそう言って立ち上がり、その場を去ろうとするが、王子に呼び止められて王子を見た。
「なによ?」
またいつものような軽口を叩いたら怒ってやろうかとも思ったが、だが次の瞬間その気も見事に消えてしまう。
「……ありがとう」
それは、まるで毒の無い、微笑み。
「ど、どういたしまして」
かっこいいこと、思った。普通なら、ここで頬を赤く染めねばなるまい。
でも。
(……まともな王子って、怖いわね)
そんな失礼な感想を抱き、少し引き気味にその場を早々と立ち去るセティだった。
やはり、王子はちょっと痛いくらいがちょうどいいのかもしれない。
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