竜の花嫁

竜の花嫁

[ 愛してる ]

たまらなく不安になるときがある。
いつか、この少女は自分を置いてどこかへ行ってしまうのではないかと。

もともと、相容れぬはずであった種族。それがどう転んだのやら今ではこうして抱きしめたくなるほどの存在になっている。腕の中で頬を赤らめて、小さな声で名を呼ぶ彼女の姿は、ドラゴンである自分から見ても、とても愛らしく思える。人間の男ならば、彼女の魅力をもっと感じてしまうのかもしれない。
そして……。だから、不安になる。
人間の心は弱く移ろいやすく、そして命は儚く。そんな人間からしてみれば、恐れるべき化け物でしかない自分は、いつか見向きもされなくなってしまうかもしれない。
全て憶測の息を出ないことばかりだが、それだからこそ不安は募るのだ。
はじめて、こんなに誰かを好きになったのに、もし別れることにでもなったら、自分は正気を保てるだろうか。それこそ、彼女を幽閉して……もしかしたら手にかけてしまうかもしれない。

「ティアナ、私が好きか?」

たまらなくなって、エドヴァルドは腕の中の少女に問い掛けた。少女は一瞬、面食らったような顔をして彼の顔を見上げ、だけれど、やがていつものような笑みを浮かべた。

「大好きよ。貴方が考えてるよりも、ずっと」

その言葉に、濁りなんて微塵もなかった。
彼女の言葉いつだって、本物だった。

「そうか」
「でも、びっくりしちゃった。珍しくそんなこと聞くから。……どうかしたの?」
首をかしげる少女を見下ろして、エドヴァルドは、表情を浮かべるには向いていない顔の筋肉を、不器用に動かして苦笑した。
「時々、不安になる。こんな禁忌を犯している私たちは、いつか引き離されてしまうのではないかと」
だから、こうして彼女の存在を確かめたくなってしまう。

姿で、声で、香りで、肌で

それでも、まだ足りない。

欲望とは、なんと尽きないものなんだろう。こんな感情を、知らなかった。
求めるものなんて、なかった。いつだってそれなりの生活にそれなりに満足していた。だけれど、彼女に出会って、自分は確かに変わってしまったのだ。
国王でありながら、ただの雄として、男として、一人の女性を求めている。心のそこから。

「お前を失いたくない」

エドヴァルドの言葉に、ティアナは腕を伸ばして、切ない目をしたドラゴンの頬に触れると目を細めた。そして、優しく……それでも、凛とした声で、彼女は囁いた。

「忘れないで、エドヴァルド。
例え神が赦さなくても
私はあなたを愛しつづけるから」

その言葉と瞳に宿るのは、確かな決意。

あぁ、どうして彼女を「弱い」などと思ったのだろう。今、目の前で微笑んでいる少女は、どう考えても自分なんかより強いのに。

「あなたは、どう?」

いたずらっぽく、瞳の奥が揺れる。

エドヴァルドは、ゆっくりと、「あ」から始まる甘い言葉を囁いた。

[03:見た目よりもずっと強い]

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