竜の花嫁

竜の花嫁

[ そこにある温もり ]

許されるとか許されないとか、そんなものは結局自分が傷つかないようにするための言い訳に過ぎない。全てを捨てる覚悟と全てを受け入れる決意さえあれば、それだけで人は何でもできるのに、大抵の場合一番最後の時になってプライドや不安、後ろめたさが働いてブレーキをかけてしまう。一番の障害は身分や性別、種族なんかじゃない。いつだって敵は自分の中にいる。
 だけれど私は、その敵を殺した。息の根を止めて、ブレーキを破壊した。プライドも身分も財産も全て投げ捨てた。後悔しなかったと言えば嘘になる。だけれどそれ以上の倖せ倖せを、こうやって横たわりながら見つめている。その鱗に覆われた巨体も、鋭い牙も、背に生えた翼も、全てが愛しくてたまらない。
 今はまだ閉じているこの瞳がまた再び開けられたとき、一体どんな顔をして彼と話そうか。いつもと同じように笑って会話ができるだろうか。
 『初めて』の夜を見送り、やってきた朝が、こんなにもくすぐったい気持ちになるものなんだとは、知らなかった。思わず顔が緩む。

「好きよ」

改めて口にしてみると、口いっぱいに甘酸っぱさがひろがった。
このドラゴンが好きなのだと心の奥底から実感してしまう。

「大好きよ」

返事なんて、いらなかった。ただ傍にいてくれれば、それでいい。

彼を起こさないように、ゆっくりその太い首に腕を回して、そこにある温もりを満喫して笑う。


そして、呼応するように優しく強く抱き返す腕に、彼がただ眠っていたふりをしていたのだと気付くのは、もう間もなくのこと。

[02:傍らで眠る、暖かな存在]

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