シンデレラ奇譚

[ 第8話:ショコラの微笑み(3) ]

 私の存在はあまり公にはされていない。大臣たちはこぞって反対しているらしいし(そりゃそうだ。もっとがんばって反対してほしい)、私が結婚を望んでいないので、私の存在はかなりグレーだ。王城の中にいるけれど、わたしは王城の人間ではない。貴族でもなければまして、妃でもない。だから、私をメイドかなにかだと思っている人も、たまにいる。
 そんな私の権限がどれくらいのものなのか、実はよくわかってない。婚約者という立場なのかただの客人なのか、そのあたり微妙である。でも厨房のスペースを少しだけ貸してほしいと頼んだところ、快くコックさんが了承してくれた。どうやらこの人たちは、私のことを知っているらしい。
「王子に手作り料理を差し上げるのですか?」
 女のコックさんが優しい微笑でそう尋ねてきた。んー、間違いでは、ないけれど。
「プレゼントですか?」
 そんなかわいいものではないのよ。
「まぁ、近からず遠からず、です」
「恥ずかしがらなくても、王子はお喜びになりますよ」

 うん、喜ばせるためじゃないんだけどね!

 お菓子作りは初めてじゃないし調理器具が充実しているので、それなりにできるだろう。とは思っていた。それにチョコなんて溶かして固めるだけのものだし、苦労なんて無いはず。
 しかし、誤算がひとつ。
 コックさんがいてくれたおかげで、思いのほかチョコ作りは本格的な装いを帯びてきてしまったのだ。ど、どうしよう。こんな気合入れたくないのに!
「セティ様、泡がつぶれないようさっくりまぜてくださいませ」
 さっくり、さっくり
 さっくり加減て、難しい。
「あ、はい」
「メレンゲの白が残っていませんね?」
「な、ないです」
「上出来ですわ。さぁ、焼きましょうか」
 最初は、板チョコ溶かし、砂糖大量に混ぜて甘くして、適当な形に固めよう。って思ってたのに、なぜか目の前にはショコラのタネ。自分で言うのも変だけど、かなり、おいしそう。そのチョコレート色したタネを型に流し込んで、オーブンに投入。さぁ、あとは待つだけ。コックさんにしごかれながら作ったガトーショコラ。あぁ、おいしく出来ると良いな。
 ……あ、違う。美味しく出来ることが目的じゃない。
「王子、嫌がってくれるかしら」
 そう、こっちがほんと。
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