シンデレラ奇譚

[ 第8話:ショコラの微笑み ]

 私は、王子に見捨てられなければならない。それも半年内に。それが私の第一目的。……目まぐるしい日々に、危うく忘れそうになるけど。だって、あれから頻繁に訪れる幸薄(自称)シンデレラとか妖艶魔女とか、ねぇ。悩み出したらきりが無い。
 でも、実は、王子に対して、ちゃんといつも地味な嫌がらせをちゃんと実行している。うん、これでも仕事はちゃんとしてるのよ。仕事って言えるかどうかは微妙なんだけど。

 王子用のおいしい紅茶を生ぬるーい牛乳に摩り替えておいたり、引き出しのあらゆる衣服を全部裏返しにしておいたり、本棚の本の順番をバラバラにしておいたり(ちなみに本のカバーと中身もバラバラにした)。扉が開いたらモップが倒れてくるようにセットしておいたり。

「ほんとに、地味よねぇ。センスが無いとしか」
「うぅ」

 今まで例に挙げた嫌がらせを思い起こして、ジュリアがつぶやく。ベルもジュリアに同意するようにうなずいた。
「だって……嫌がらせって、難しいわ」
 いつもどおりのティータイム。私が今後どうするか、という会議はたびたび開かれるけれど、有益な結論が出ることは……まずない。相手は王子だ。太刀打ちできようはずも無いし、そもそもベルもジュリアも本気で考えてはくれてないし。だって、私のぴえろっぷりを楽しんでるような友人だ。
 さて、嫌がらせの件だけど。極端なのはたぶん周囲に怒られる。っていうか、捕らえられる。それにわたしだって過激なものはやりたくない。靴の中に画鋲だなんて痛そうだし、食べ物に虫を入れるなんて食べ物粗末にしたらばちが当たる。私には出来ない。
「人には得手・不得手がある。しかたないよ。ほらセティは優しいから」
 にこりと笑って私を撫でるベル。髪を梳かれ頭を撫でられるのは、気持ちいい。あー、こんなことが自然に出来るベルは女の子なのにほんと男前。そして考えてみると、悔しいかな王子もたぶんできちゃうタイプだ。あいつはたらしである。
 おとなしく撫でられていると、ベルの手がふと止まる。
「不得手といえば……王子に苦手は無いのかな」
 はて、苦手かー。いろいろ探したけど。
「無いと思う。最初に探してみたけど、みつからなかったもの」
「それは、以前のことだろう? 今はほら、エリク君がいるじゃない。彼、王子のお付なら一番王子をよく見ているはずだし、何か発見があったかも知れないよ」
 なるほど、たしかに。エリクはたぶん城内で一番王子と一緒にいる。私のせいだけど……かわいそうだ。
「よし、聞いてみるわ」
 苦手な食べ物くらい、見つかったかもしれない。
「結果を聞かせてね。楽しみにしてるわ」
ジュリアのその微笑みはとてもかわいかった。しかし、その笑みはおそらく成功を祈るものでは無かった。
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