竜の花嫁
[ 序:竜王の決断 ]
王城は窮地に立たされていた。隣国がこの城を攻めようとする動きがあるらしいのだ。国王は、しばしバルコニーからその隣国のある方向を睨んでいたが、意を決したように頷いた。事は急務である。
バルコニーの手すりに己の足をかけ、そしてグッと力をこめて、虚空にその身を投げ出した。
この城は切り立った崖の上に建てられており、眼下には渓流が流れている。王はその流れに向かってまっすぐに頭から落ちていく。しかし彼はその背に生えた巨大な翼を、たった一度、大きく動かして水面目前で体を立てなおした。空を切る鈍い音がして、渓流までもがその風圧に一瞬流れを失い、水面には波紋のような波が立つ。彼は前方をしっかりと見据えると、体を低く構えて、再び翼を羽ばたかせ、目的地へと急いだ。
余談だがこの国は、その昔。
竜皇国――竜の統べる国――と呼ばれていた。
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