ティアナは、笑っていた。
「貴方と共に生きてゆけるのならば」と。
哀しくないはずが、無いのに。
それでも彼女は笑っていた。
私を不安にさせないように、精いっぱいの強がりで。
あぁ、もし神がいるのなら、どうして私たちは私たちとして生まれてきたのだろう。
どうして、こんなにも私たちは遠い世界にいるのだろう。
彼女は人間の王女で、私は魔物の王で。
寿命の差など、当たり前のようにそこに寝転がっていて。
このままではいつか、きっと遠くない未来、それにつまずいてしまう。
そして、きっと私は起き上がれなくなるだろう。
彼女はそれを憂い、全てを捨てると言った。
「一緒に生きたい」そう言ったのだ。
ドラゴンの血を飲めば不老不死になれると人間は思っているらしいが、それはほんとうに微妙な点で違う。ドラゴンの血を飲むということは、それはある種の契約にすぎない。
ドラゴンの寿命と自分の寿命を結びつけるという契約。
だがそれは人にしてみれば膨大な時間で、故に人は不老不死だと思うのだろう。
そして彼女は、その人間における不老不死になることを望んだ。
一見、それで丸く収まるような気さえする。
だが、老いてゆく時間が極端に遅くなるということはつまり、周りに、残されてゆくということだ。
親しいものも、そうでないものも、肉親でさえも、彼女が瞬きをするほどの時間に年老いて去ってゆくのだ。そしてこれからの人生で誰と出会おうが、だれもが皆彼女を取り残して去ってゆくのだ。その悲しみに狂っていく者も過去にいたという。
「それで、いいのか」
なのに、残酷な言葉を彼女に問い掛けてしまう。
良い筈が無いことを、自分は知っている。
きっと彼女以上に、その時間の流れの残酷さを知っている。
それなのに、どうしてだろう。
「いいの。貴方が、悲しむのは嫌だから」
この残酷な決断を嬉しく思う自分がいる。
こうやって、優しく笑う彼女を大切に思うのに。
彼女を守りたいと思うのに。
あまりにもずるい。たちが悪い。
愛だなんてひどく曖昧で頼りないものに、この汚い感情を全て、いいように押し付けてごまかしている。
「……お前といると、私はどんどん弱くなっていく。お前が愛しくて、欲しくて、貪欲になってしまう。どんな手を使ってもお前を手放したくないと、そう思ってしまう。ティアナ、お前がこの選択をして苦しむことも、私はきっと……お前以上に知っているんだ」
彼女はただそれを静かに聞いていて、何を思っているかもその表情からは窺い知れなかった。
あきれているかもしれない。汚いと思われるかもしれない。
こんな自分と、彼女は一緒にいるべきじゃない。
そんなこと、わかっている。最初から知っている。
でも、
「だけれど、私は……。私は、ティアナと生きてゆきたいんだ」
ティアナはその言葉を聞いて、ゆっくりとその手をわたしの頬に寄せた。
そして、微笑みながら泣いていた。
「……はい」
その温かさが、ただただ愛しかった。
[05:君と居ると、弱くなっていくようだ]