寝る時間ですよ。と言えば、「おはなしをしてよ」とベッドの中で幼子(おさなご)がぐずる。
さて、自分が知っている童話の類はすべて話してしまった。
じゃぁ、いつものお気に入りを。と思って微笑むと、その子も気づいたのか、ふわりと笑う。そして顔を見合わせるて二人の声が重なった。
「おとーさんと、おかーさんのお話」
それは、竜の王様と、とらわれのお姫様のお話。
「たからものが増えて、いまでも幸せでいっぱいなのよ」
話し終えて顔を覗き込めば、その「たからもの」は、うとうとと舟を漕いでいる。
「さぁ、おやすみなさい。だいすきよ」
まぶたにキスを落とす。きっとこの子が見る夢は
誘拐から始まって、まだまだ終わらない、幸せな物語。