第8話: ショコラの微笑み 3 BACK | INDEX | NEXT 2010/10/20 update |
私の存在はあまり公にはされていない。大臣たちはこぞって反対しているらしいし(そりゃそうだ。もっとがんばって反対してほしい)、私が結婚を望んでいないので、私の存在はかなりグレーだ。王城の中にいるけれど、わたしは王城の人間ではない。貴族でもなければまして、妃でもない。だから、私をメイドかなにかだと思っている人も、たまにいる。 そんな私の権限がどれくらいのものなのか、実はよくわかってない。婚約者という立場なのかただの客人なのか、そのあたり微妙である。でも厨房のスペースを少しだけ貸してほしいと頼んだところ、快くコックさんが了承してくれた。どうやらこの人たちは、私のことを知っているらしい。 「王子に手作り料理を差し上げるのですか?」 女のコックさんが優しい微笑でそう尋ねてきた。んー、間違いでは、ないけれど。 「プレゼントですか?」 そんなかわいいものではないのよ。 「まぁ、近からず遠からず、です」 「恥ずかしがらなくても、王子はお喜びになりますよ」 うん、喜ばせるためじゃないんだけどね! お菓子作りは初めてじゃないし調理器具が充実しているので、それなりにできるだろう。とは思っていた。それにチョコなんて溶かして固めるだけのものだし、苦労なんて無いはず。 しかし、誤算がひとつ。 コックさんがいてくれたおかげで、思いのほかチョコ作りは本格的な装いを帯びてきてしまったのだ。ど、どうしよう。こんな気合入れたくないのに! 「セティ様、泡がつぶれないようさっくりまぜてくださいませ」 さっくり、さっくり さっくり加減て、難しい。 「あ、はい」 「メレンゲの白が残っていませんね?」 「な、ないです」 「上出来ですわ。さぁ、焼きましょうか」 最初は、板チョコ溶かし、砂糖大量に混ぜて甘くして、適当な形に固めよう。って思ってたのに、なぜか目の前にはショコラのタネ。自分で言うのも変だけど、かなり、おいしそう。そのチョコレート色したタネを型に流し込んで、オーブンに投入。さぁ、あとは待つだけ。コックさんにしごかれながら作ったガトーショコラ。あぁ、おいしく出来ると良いな。 ……あ、違う。美味しく出来ることが目的じゃない。 「王子、嫌がってくれるかしら」 そう、こっちがほんと。 |