第8話: ショコラの微笑み 2 BACK | INDEX | NEXT

2010/10/20 update
「王子の、嫌いなものですか?」
「うん、そう」
 王子が委員会に出ているあいだ、出席を許されていないエリクは暇である。部屋の前の廊下に立っていたエリクを捕まえて、私は廊下のくぼみに引っ張り込んだ。
 しばし眉間を寄せて考えるポーズをとったエリクは、ポツリとこぼす。
「チョコレイト、とか」
「は?」
「いや、ですから、そのー。あ、甘いものが苦手だって」
 さすがに主人の苦手をばらすのは気が引けたんだろうか。エリクの顔には苦いものが浮かんでいる。でも、エリクは私に対して「王子とのつながりをくれた」という感謝意識があるためにちゃんとこたえてくれる。日々雑務を押し付けられながらも、エリクは王子に対する尊敬と、王子付きという役職につけた喜びを疑わない。ほんと、いい子で平和な子だ。
「へー。甘いものか、ふつうね」
 男の人で甘いものが苦手って話は良く聞くけど、まさか王子もだなんて。前に甘いブルーベリータルトを食べているのを見たから、思いつきもしなかったけど。たしかにチョコとケーキじゃ「甘い」のタイプが違うのかも。
「ありがと、エリク。じゃあね」
 私はエリクにお礼を言ってきびすを返した。さぁ、ことは急務である。私は後ろも振り向かず、厨房に駆け込んでいった。

 だから、私は知らない。エリクが走り去った私を見ていたことを。そして
「ほんとに、よかったのかなー。これで」
 その後悔のつぶやきを。

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