第7話: 突発性運命 2 BACK | INDEX | NEXT 2010/10/20 update |
「はぁ?」 「嘘」ってなにさ! い、いいいい意味がわかんない! 何なのこの人! 「からかってんの?」 「いや?」 「じゃあ、なんで!」 おもわず、語気が強まる。だって、すごいびっくりして、本気で悩んだのに。もしかして、会ったことがあるのかもしれないって、また逢えたのかもって、本当に考えてしまったのに。 私がにらみつけると、彼は言う。もうそこにはさっきまでの安堵の微笑みはなくて、いつものすこし人を馬鹿にしたような笑顔があった。そして、ふとんに包まったままの私に手を伸ばして、ふとんの上からポンポンと頭をたたく。 「もし、君が勘違いをして、私のことを思い出したと言ってくれていたら、それにつけこもうと思ったんだけどね。ほら、いつもの、恋の駆け引きじゃないか」 あなたと恋の駆け引きだなんて、したことないですけど王子様。 「不愉快だわ」 「でも、まさかこんなに悩んでくれるとは思わなかったよ。言ってみるものだ」 「王子の言うことなんて、もう信じないから。早く出てって」 もう名前を呼ぶ気すらもおこらない。わたしはすっぽりとふとんに頭から隠れて篭城を決め込んだ。ああ、むかつくったら。こんちくしょう。どんな歯の浮くような気障ッたらしい言葉を吐いても、乗ってやるものか。 しかし、訪れたのは、沈黙。てっきりふとんを引き剥がそうとするものだと思っていたので、ふとんを強く握り締めていた手のひらも、なんとなく居心地が悪くなる。私はふとんを被ってしまっているので、外が見えない。目の前にいるはずの王子はどういう状況にいるのだろう。私が痺れを切らして出てくるのを待っているのだろうか? しかしそうだったとしても、その手には乗るものか。出て行くのはアンタのほうだ。 真っ暗な静寂の中だと、どうも時間の感覚が鈍る。こうして、5分になるだろうか、10分だろうか、もしかして30秒くらいかもしれない。何もしゃべらない王子の、視線だけがなんとなくふとんをすり抜けて伝わってくる。なんか、やだな。こういう沈黙は苦手。 そして幾分か経った後に、やっと沈黙を破ったのは、王子だった。 「……ああ、それでいい。ずっと、隠れていてくれ。運命になんて、選ばれないでくれ」 「?」 意味が、わからない。小さなささやき声。さっきのようなからかう雰囲気はなく、やさしい重みがふとんの上から感じられた。彼が手を当てているらしい。それが上下に動くだけで、まるで本当に撫でられているような感覚に陥る。優しい手つき。人に撫でられるのは好きだけれど、これはなんだか気持ち良いような、気色悪いような。 「運命はね、あったんだよ。残念なことに、私と君との間ではなかったけれど」 「?」 「……おやすみ、セティ」 ベッドがぎこちなく沈む。こちら側に少し傾いたような気がして、体がこわばる。そして頭上で小さく、小さく、衣擦れの音がした。それは、手以外のもっと軽い何かが触れたような音。 まるで 子供にささげるおやすみのキスのような。 第七話 了 |