第5話: 魔女の契約 2 BACK | INDEX | NEXT 2010/10/20 update |
着替えるところを見られるのは女友達とは言え恥ずかしい。ジュリアにはちょっと部屋の外へ出てもらって、ドレスをベッドの上に寝かせ、改めて“せくしぃドレス”と対峙した。 もし、もしも。だ。 着てみて入らない事に気付いたら、あまりに、切ない。 「……やめよっかな」 サイズの問題抜きでも、この服を着ない理由なら、てきとーにあげられる。 「こんな胸の開いた服、ふしだらよね。ね!」 自分に言い聞かせるように言うものの、やっぱり、ちょっぴり、興味がそそられる。 ちょっと、だけ。着てみようか。 無理そうなら、さっきの理由をつけて最初から着なかったことにすれば良いし。 覚悟を決めて、私は今着ている服を脱ぐと、ドレスを頭から被る。形が崩れないようにもぞもぞとドレスのすそを掴んでを下に送る。あ、やっぱり腰苦しいかも、しれない。 「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶ」 おなかに若干力をこめて、なんとか最後まで着ることができた。 「うわー、なにこれ」 思った以上に、きわどい。 がばりと開いた胸のところを、クロスさせた紐で留めているところが余計に扇情的だ。鏡の前でくるくると回って、背中や全体をちゃんと確認してみる。 「まぁ町娘にしては、ましなほうじゃない?」 突然の、声。 「は?」 ジュリアはまだ外に居る。もちろん、独り言じゃない。 正面の全身鏡をのぞくとそこには、自分と、その背後に一人の、女。 「だ、だれっ?」 私は後ろを振り返って、一歩あとずさった。女は私を下から上までじろじろと見回し、値踏みするように「ふぅん」と小さく首を縦に動かした。 その出で立ちは怪しさ満点で、とても侍女や城付きの者とは思えない。真っ黒の長いローブをひきずり、髪は赤毛で長さは腰までもありそうだ。そして極めつけは、これまた真っ黒の……とんがり帽と、肩の、黒猫。 これって、もしかして、ええと……。 「あんた、ちっちゃいときに童話を読んだことも無いの?」 女は目を丸くして、私に言った。そんな質問は心外だとでも言わんばかりに。 いいえ、絵本なら読んだことはありますよ。ありますとも。貴女のようなかっこうで……でも貴女とは違って、もっとよぼよぼのおばあちゃんが出てくるお話を。 「じゃあ、やっぱり……」 胃の奥からねじられるような痛みが込み上げてくる。緊張なのか恐怖なのかわからないけれど、握った手のひらは冷たい汗で湿っている。 あぁ、こんなのって、うそだ。冗談じゃない。 背後は鏡で、逃げ場はどこにも無い。 「あたしは魔女様だよ、おじょうちゃん」 にんまりとわらう女。 そして、わたしの方へ歩を進め―― 「……ぁっ」 わたしの胸紐を、締め上げる ううん、締め上げる、なんて、もんじゃ……ないっ 息が、できな―― |