第4話: 胎動する世界 3 BACK | INDEX | NEXT 2010/10/20 update |
立ち上がってセティの背を見送った王子は、彼女が見えなくなると、やがて腰を折ってクツクツと笑い始めた。堪えるどころのレベルは、もうとっくに超えている。今なら、プライドも何をも捨てて、馬鹿みたいな大声で笑えるかもしれない。 「まいった」 笑い声の中に、思わず漏れた。こんな感情や言葉を、自分は知らない。 最初は、退屈しのぎのおもちゃだったのに。その娘が、この自分に、友達になってあげるだなんて。しかも、彼女自身は気付いていなかったが、 はじめて、なんの屈託もなく、笑いかけてくれた。 「傑作だ」 思えば、自分は寂しさを感じるはずなんて無い。じぶんの感情は、あの日から、ずっとずっと止まったまま。いや、そもそも動いたことなど一度も無い。それなのに「さびしそう」だなんて、それは、つまり。 「知らないうちに、世界は動き出していたんだな」 そして、その世界を動かしたのは、彼女に他ならない。何も、知らないくせに。いや、何も知らないからこそ。 「しんじられないっ」 笑顔一つに、こんなにも簡単に。 もう、この先自分にもどうなるかなんてわからない。こんな色鮮やかな視界は、初めてだ。 「……欲しく、なってしまった」 ひとつの世界が、生まれようとしていた。 第四話 了 |