第4話: 胎動する世界 2 BACK | INDEX | NEXT 2010/10/20 update |
多くの人に囲まれて。多くの物に囲まれて。何故、そんな彼を見てこんな考えが浮かぶのかは、セティにもわからない。だけれど、そう感じてしまう。 王子はセティの問いかけに、驚いた顔をした。まるで、今まで気付かなかったものに気付いたかのような。 「さぁ、どうなんだろう。……そんなこと、思いつきもしなかった」 そして、両の手に視線を落とし、呟く。 「そうなのかもしれない」 なぜ。 どうして、彼はそんなことに気付かなかったのだろう。 何故。 「……いままで、何とも無かったの?」 王子は深く頷き、セティは言葉を失う。嘘だ。そんなこと、あるはずが無い。 だって、あの頃の、あの頃の自分なら。 「寂しさってね、自分が思っている以上に、心を窒息させて、萎縮させて、蝕んでいくの。何とかしなきゃって思う頃には、もう、ひとりでは立ち上がれない」 もう、遠い昔のこと。すっかり癒えた様に見えて、でも、その心の奥底のくぼみは、消えることは無い。どんなに時が経とうとも、わずかばかりの影が脳裏をよぎる。寂しさの傷を、自分はまだ、こんなにも覚えている。 だから 「私、あなたの妻になんてなる気は毛頭にも無いけど、友達にはなってあげる。話をするくらいのことなら、私にもできるもの。人間と喋ってる実感なら、いくらでも」 セティはそう言って、笑った。 「じゃ、そろそろおいとまするわ。ベル達が帰ってくる頃だから」 「セティ」 セティは、いつもの調子でそう言って立ち上がり、その場を去ろうとするが、王子に呼び止められて王子を見た。 「なによ?」 またいつものような軽口を叩いたら怒ってやろうかとも思ったが、だが次の瞬間その気も見事に消えてしまう。 「……ありがとう」 それは、まるで毒の無い、微笑み。 「ど、どういたしまして」 かっこいいこと、思った。普通なら、ここで頬を赤く染めねばなるまい。 でも。 (……まともな王子って、怖いわね) そんな失礼な感想を抱き、少し引き気味にその場を早々と立ち去るセティだった。 やはり、王子はちょっと痛いくらいがちょうどいいのかもしれない。 |