【本編】 終:王女の決断 BACK | INDEX | NEXT 2010/10/20 update |
響き渡るファンファーレ。ちらちらと舞う金銀色とりどりの紙ふぶき。その中心にいるティアナは、縫い付けた様にきつく閉じた瞼を、ゆっくりと持ち上げた。 自分は、王女だ。自分の迷いは、国民の憂いとなってしまう。腹を括ろう。 すべては、この国のために。 「ティアナ、よいか」 「はい。今行きます」 国王に背を押され、ティアナは立ち上がった。 婚礼は、滞りなく進められた。残るのは、指輪の交換と誓いの口付けのみ。これで、全てがリセットされて、新しい世界が始まるのだ。あの数ヶ月は、全て思い出の中に沈殿していって、いつか色も褪せてゆくだろう。 そう思う。そう、ねがう。いつまでも縋ったままでは。苦しすぎるから。 ティアナは、口付けを待ち、瞳を閉じた。 だが、いつまでたっても、来る様子がない。 悲鳴だけが、会場に響き始めている。 (悲鳴?) 晴れの婚礼で、悲鳴が上がるはずなどない。ティアナは目を開けて、言葉を失っている王子を含めた皆の視線を追い、そして彼女もまた言葉を失った。 「約束どおり、助けに来たぞ。ティアナ」 低く、優しい声。 自分の名を呼ぶ、彼は。 「エドヴァルドっ」 気高く優しい魔獣が、そこに。 「助けてくれと、言っただろう? 遅くなって、すまない」 彼は、いつも通り真面目な顔で言った。 「あ……」 ティアナの頭の中が、真っ白になる。 気付いたら、人の手を振り払い、塔のてっぺんを目指して階段を駆け上がっていた。走りにくいドレスのすそは引きちぎり、ただひたすらに。 われに返った兵士たちが、追いかけてきたが、もう遅い。ティアナは、窓に足をかけると、 その身を虚空に投げ出した。 怖くなんて、ない。そこには、彼がいてくれるから。 「エドヴァルドっ」 大好きな背中に着地して、彼の首に抱きついて、ティアナは花がほころぶように笑う。そしてその笑顔で、下を見下ろすと、大きく手を振って叫んだ。 「皆、ごめんなさいっ。わたし、この結婚はできませんっ」 父は泡を吹いて倒れ、王子は泣きじゃくり、……なぜか、相手方の国王は腹を抱えて笑っている。国民は彼女の笑顔に毒気も抜かれたように、ただ呆然としていたが、すぐに結婚式の仕切りなおしだといわんばかりのファンファーレを奏ではじめた。なんてお気楽な国だろうか。 「帰りましょ、エドヴァルドっ。……私たちの城へ!」 そして、今度こそ伝えよう。この気持ちを、優しすぎるこの竜に。 前途は、果てしなく険しい。でも、なんとかなりそうな気がする。 なんとか、やっていけそうな気がする。だって、彼がそばにいるだけで、こんなにも倖せな気持ちになれる。 そして、いつかは 「わたしね、竜の花嫁になりたい」 いつか。遠くない、いつか。 この竜と一緒に心から笑える日が、くればいい。 |